スーツ職人を育てる若手研修会
1部:紳士服地の品質について
講師:奥山太以志
今回は、スーツ作りの醍醐味のひとつである紳士服地を勉強できるとあって集まったファイブワン若手社員は20名。
講師と、ファクトリースタッフの問答形式での進行で、楽しく沢山のことを学ぶことが出来ました。
時間も大幅に延長して、3時間以上の研修会となりました。
◇ファイブワンファクトリー多目的ホール
研修会内容
◆紳士服地に最も多い素材であるウール
ウールは羊毛です。原産国は、オーストラリア・ニュージーランド・アメリカなどで、メリノウールという呼称で有名なメリノ種の羊が主流です。
それ以外には、サウスダウン・シロップシャー・ハンプシャーなどがあります。
そして、モヘアが獣毛です。アンゴラヤギ・カシミアやラクダのキャメルヘアなどが有名です。
◆毛織物のSuper表示と原毛の繊度(せんど、糸の太さ)について
昨今、毛織物服地の品質表示について、輸入品、国産品を問わず、「スーパー110s・・・」といった表記により、紳士服地の品質を表現することが多くなりました。
イタリア生地の多くは、スーパー110s~130sといった表現でタグに表示されています。
メリノ種羊毛の中で、平均直径が17.0~18.5マイクロメーターのスーパーファイン原料では、100番手の糸が紡績可能です。この種の高級原料を使用した毛織物を英国ドーメル社が「スーパー100」と称して発売したのが、現在のスーパー100sという言葉の由来であろうという見方が一説にあるそうです。
これらは恐らくスーパーファイン100counts(カウントの複数)を略したものであり、スーパーの後に付記される数字は、紡出可能な糸番手の限界を示しており、その織物に使用されている糸番手を意味するものではないと考えるのが妥当だといわれています。
糸の番手とは、縦糸と横糸を表す数値です。
毛糸の太さを表す単位で1kgの綿で48km紡いだら48番手の糸となり、従って数字が大きくなる程細くなります。
表示の仕方:2/74 = 1/37
(74番手双糸) (37番手単糸)
単糸・・・1本の糸
双糸・・・2本の糸を撚り合わせた糸
平織・・・縦糸と横糸が1本ごとに交差する組織。
薄地で軽い夏物でトロピカルが有名
綾織・・・縦糸または横糸の浮きが斜めに続いて斜文線をつくる。
なめらかな手触りが特徴で、冬物やオールシーズン生地に多い。
生地の目付とは、生地をシングル巾150cm×1mもしくは、1平方メートル当たりをgで表す。
1ヤードの場合は、オンスで表示することもある。
イタリア製で最もポピュラーな高級紳士服地であるカノニコ社のスーパー110s
の場合。
縦糸2/74=横糸1/56ですから、
74番手双糸と56番手単子を使用して、目付は260gであります。
コスト軽減・軽量化・生地の薄さを実現した服地です。
このような、紳士服の品質は、ミル(織元)であるゼニア・ロロピアーナ・バルベラ・デルフィノなどの最高級服地メーカーの研究開発努力により向上しており、【クールエフェクト】など近年を代表する生地も生まれています。
また、製造はしないが生地のデザインを織元に発注して在庫し、着分にカットして全世界で服地を販売するマーチャントがあり、ドーメルが有名です。
【アマデウス365】【KIBOU311】はいま注目される服地のひとつです。
◆それでは、紳士服地の品質を見る方法には、どのようなものがあるのでしょうか、20年以上紳士服地を扱っているベテランともなれば、生地の顔を見れば一目瞭然で、触れば品質をきっちりと判断することも可能ですが、数値で表す方法としては、堅牢度検査という方法が一般的です。
日光・水・洗濯・汗・アイロン(熱プレス)・摩擦での耐性を5段階で評価します。5が最も良く、1・2になると危険です。
紳士服地の品質といっても、多種多様です。
マニアックな知識ですが、染には、先染め(糸染めorトップ染め)と後染めがあります。先染めの方が色艶に深みがあり高級品と言われ、そのなかでもトップ(不純物のない均一な太さに巻き上げる)染めは糸になる前に染めることから、糸染めよりも良いとされます。
無地の生地で、先染めと後染めを比べると一目でその違いは歴然です。
先染めの生地は無地でも糸柄がでるため単調にならないのですが、後染めの生地は同色単調に見えてしまいます。
◆品質をとるのかファッションをとるのかという論点からいうと、洋服は着る人だけでなく、TPOに合わせた紳士服地を選択することも大切です。
ブライダル向けの服地といっても、多種多様です。
新郎向けタキシードには、シルクのような光沢があり、花嫁のドレスを引き立たせるようなドレッシーな服地が好印象です。
お父様向けのモーニングには、細番手のウール素材で深い艶のある服地が好まれます。
紳士服地の中で、コストパフォーマンスの高いものがどんどん入ってきており、選択肢がどんどん広くなってきております。
スーツは、既製服が主流と言われる日本でも、近年はオーダースーツの伸び率が大きく、1960年代から逆転された地位をオーダースーツが取り戻す時期がいつか来るかも知れません。
毎シーズン、ファンシー生地は流行により入れ替わり、クラシック生地は定番化して恒久的に取り扱われます。
ファンシーでは、グレンチェックやウィンドペンが増えています。
クラシックでは、ピンストライプやチョークストライプは定番化しています。
季節感としては、フォーシーズン生地がオーダースーツでは人気があります。
カノニコのスーパー110sで目付260gの生地でしたら、年中通してスーツとして着て頂くことが可能です。
夏に涼しい生地と言えば、リネン素材になりますが、リネン混の服地も沢山輸入されており、リネンでも発色が良いモノもあり夏には人気生地のひとつです。
冬には、ハリスツイードを代表とする紡毛で厚手の服地は、着る期間こそ限られますが、12月~2月の寒さには良いかもしれません。
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